最終日は開場時間前からお客様が入り始めました。ジャージをジャケットに替えて、ガイドに変身です。
今日が最後と思うとつい力が入りそうになるのを抑えて、井出さんが込めた思いが伝わるように部屋と作品の関係に重点をおいて話しました。案内してまわるだけでなく、今どの部屋にいるのだろうと間取図を見ている人にここですと示し、部屋を包む銅版画の図像にとまどっている人に作品の説明をし、人が少ないときは襖や障子がいちばんきれいに見えるところに座ってもらい、電灯を消して自然光と見え方を比べてもらい、近藤さんのオブジェを探す人にヒントを与え、渡部家住宅の昔の様子を知っている人から話を聞き、時間がたつのを忘れていました。 制作工程を展示したコーナーで、井出さんのご子息のSクンがお客様に説明していました。このプロジェクトが始まった頃に生まれたSクンは、渡部家住宅の銅版画展と共に成長してきたのです。 「これをね、こうしてね、ここに置いて、こうするの」 お客様はにこにこ聞いて下さっていました。 ひと区切りついたところで、横で見守っていたお父さんがSクンを抱き上げてママに渡し、 「すみませんでした。あらためてご説明します」 と引き取りました。 Sクンはママの横でちょっと不満げです。 午後4時を少しまわったころ土間で閉幕のセレモニーが静かに始まりました。関係者と居合わせたお客様を前に、実行委員長の近藤さん、井出さん、ご当主の渡部さん、そして事務局長の森田さんから短いながら気持ちのこもった挨拶がありました。 いつの間に用意したのか、前庭に置かれた長机に巻き寿司、赤飯、おはぎが並べられていました。 みんなが庭に出てパーティーの始まりです。会話の波が寄せては返し、笑いが起こり、和やかなひととき。春らしいほんわり暖かい日差しの下で、お客様は観てきたばかりの銅版画の余韻を味わい、関係者の脳裡には三期4年にわたったこのプロジェクトの思い出が去来していたことでしょう。みんなのくつろいだ笑顔を見ていると、この一ヶ月間の緊張がほどけていくようでした。 井出さんの銅版画展にふさわしい、心暖かい、記憶に残るフィナーレでした。 パーティーが終わり、後片付けもすんだころ、奥座敷に夕陽が射し込んできました。太陽が山の端に近づくと赤味を増した光が椿の襖を染めました。光は右上にゆっくり移動しながらどんどん色合いを変えていきました。第二期で一日だけ見ることができた夕陽のショーです。太陽が、ご苦労だったねと、最後にプレゼントしてくれたようでした。 井出さんと写真家の北村さんとぼくの三人だけが観客の、素晴らしいエンディングでした。(なかしろ)
by watanabekejyutaku
| 2009-04-13 18:30
| 渡部家住宅日記
|
ファン申請 |
||